『嫌われる勇気』|読んだ本の感想

去年うつ病を診断を受け、それまで勤めていた職場を退職した。また、ADHD・ASDと診断された。それを受けて、心のメカニズムや心理学、発達障害についての本を読みあさった。その中で、自分にとって視点を転換する大きなきっかけになった一冊が『嫌われる勇気』だった。

『嫌われる勇気』の概要

『嫌われる勇気』は、アドラー心理学の思想について書かれた本である。アドラー心理学とは、精神科医・心理学者アルフレッド・アドラーによって創始された心理学体系だ。
アドラー心理学では「すべての悩みは対人関係の悩みである」とし、その悩みを改善する考え方・方法を提示していく。対人関係のゴールを「共同体感覚」としている。共同体感覚とは、他者と対等な関係を築き、自分自身の在り様を受け入れ、他者を信頼し、他者に貢献していると感じられることだ。そのためには、他者からの承認欲求を捨て、他者と「横の関係」を結び、その上で「他者の課題」と「自分の課題」を分離する。

『嫌われる勇気』の語り口

一般的な啓蒙書と違い、全編を通して哲人と青年の対話の物語という形式で語られているため読みやすい。「人は今日からでも幸せになれる」と説く哲人と、哲人の主張に納得がいかず幸福感を持てない青年との議論という構図だ。
以下の抜粋は、青年がコーヒーをこぼしたウェイターを怒鳴りつけた一件についての対話だ。

青年 じゃあ先生はわたしの怒りを、どう説明するおつもりです?
哲人 簡単です。あなたは「怒りに駆られて、大声を出した」のではない。ひとえに「大声を出すために、怒った」のです。つまり、大声を出すという目的をかなえるために、怒りの感情をつくりあげたのです。
青年 なんですって?
哲人 あなたには大声を出す、という目的が先にあった。すなわち、大声を出すことによって、ミスを犯したウェイターを屈服させ、自分のいうことをきかせたかった。その手段として、怒りという感情を捏造したのです。

『嫌われる勇気』で語られる「縦の関係」について思うこと

アドラー心理学では他者とのコミュニケーション全般について「ほめてはいけないし、叱ってもいけない」という。なぜなら、ほめる・叱るという行為は、能力のある人が能力のない人に下す評価であり、相手を操作する意図があるからだ。そこには「縦の関係」が生まれる。

「縦の関係」は劣等コンプレックスや優越コンプレックスを生み、自分より下に見ている相手の課題への介入につながる。

誰かにほめられたいと願うこと。あるいは逆に、他者をほめてやろうとすること。これは対人関係全般を「縦の関係」としてとらえている証拠です。あなたにしても、縦の関係に生きているからこそ、ほめてもらいたいと思っている。アドラー心理学ではあらゆる「縦の関係」を否定し、すべての対人関係を「横の関係」とすることを提唱しています。ある意味ここは、アドラー心理学の根本原理だといえるでしょう。

ほめる・叱るという分かりやすい構図ではなくとも、ふとした会話の中で、今のは縦の関係に基づいた言い方だったな、とか横の関係にある言い方ができたな、と考えることがある。
例えば、誰かが物を失くして自分が見つけた時。「ここにあるやん」と言うときの自分は縦の関係に基づいている。対して「ここにあるよ」というのは横の関係。
縦の関係から来る「ここにあるやん」という言葉には、「あなたは無いと言ったがそれは間違い」あるいは「あなたが見つけられなかったものを見つけた自分の方が優れている」というニュアンスが含まれている。
これはささいな例だが、それよりもっと強い言葉・態度で他者に接してきた経験を思い、いかに自分が縦の関係を作ってきたかということに気が付いた。そして自身の優越コンプレックスや劣等コンプレックスが、自分の言葉に表れていることを意識するようになった。

読み終えて思うこと

哲人と青年の対話の中で語られる事例やたとえ話は、身近にありそうな話で自分にあてはめて考えやすい。だからこそ「そういう見方があったのか」という驚きに満ちていた。そして対人関係(親子・夫婦・友人・職場などすべて)においての普遍的な原理だと感じた。

承認欲求を持たないこと、他者との課題の分離、対等な人間関係を結ぶこと、共同体感覚を持つこと…理解できたたときはそのすべてが自然の感覚としてできる状態なのだと思う。「ここにあるやん」の例のように都度自分の言動を振り返りながら確認している私の現状は、アドラーの思想を理解できているとは言えないのだろう。

しかしその考え方が自分にだんだんとしみ込んでいくような感覚はある。何より自分の中になかった見方・視点を得られたことは大きく、私の中では2020年【今年読んで良かった本】第一位である。

 

※ 優越コンプレックスとは、自分が優れているかのように振舞い、偽りの優越感に浸ること。

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